
昆野 安彦 (2526匹目)
|
先日の新聞に北米のナキウサギが減少したとの記事が出ていた。これを読んだ時、真っ先に思ったことはその減少をどうやって調べたのだろうか――ということだった。
*
野生生物の保護を考えるとき、個体数の年変動を把握することはとても重要だ。減少していることがはっきりすれば、保護の必要性を訴えることができるからだ。
ナキウサギではないが、私も6年前から大雪山でウスバキチョウの個体数調査を行っている。この蝶は特別天然記念物に指定されているが、この蝶に関心のある誰もが最近は少なくなったと発言している。
減少した理由には地球温暖化、幼虫の食草であるコマクサの盗掘、蝶そのものの違法採集などが考えられる。しかし、今までこの蝶の科学的な個体数調査が行われたことはない。一倍思い入れの強い私は、それなら自分で調査を行い、その動向を論文として公表しようと考えたのである。
*
私が個体数調査を行っている場所はコマクサの自生で名高い赤岳の駒草平である。
調査の方法を述べよう。駒草平の登山道に約500mの調査ルートを設定し、そのルートをゆっくり歩きながら登山道沿いに飛んでいる個体数をノートに記録している。生態学ではこの方法をルートセンサス法などと呼ぶ。
調査自体はとても簡単だが、晴天で微風でなければ蝶は飛ばないので、最適な気象条件の日が来るまで山小屋で1週間待機することもある。また、1日1回だけの調査ではデータの確実性に欠けるので、朝6時から午後1時までの7時間の間、一時間おきにルートを歩いて調査を行っている。 |
|
*
こう書くと簡単そうだが、現場に早朝から7時間いることなど、結構大変だ。ただ、つらいと思ったことはない。こうして6年続けたことで、ウスバキチョウの個体数変動の状況が見えてきた。最初の2年間のデータは層雲峡ビジターセンター研究報告に書いているが、今年は6年間のデータを学会誌に「中間発表」しようと思っている。
*
機械を使わず自分の眼と足だけで行うこうした個体数調査は生態学ではもっともプリミティブな研究だろう。ただ、データは絶対に色褪せない。逆に年を経るごとにとても貴重になるだろう。
大事なことは誰でもその調査を再現できることだ。もし数十年後に誰かが再現できれば、私の記録と比較することによって個体数の変動を論じることができるだろう。もう一つ大事なことは、登山道を普通に歩くだけなので、環境省の許可が必要ないことである。やる気さえあれば、誰でも調査研究ができる。
*
今年から大雪山の某所でナキウサギの個体数調査を行おうと考えている。きちんと記録をとっておけば、将来、きっと保護に役立つ場面が出てくるだろう。

大雪山のエゾユキウサギ 筆者撮影
(こちらもお忘れなく) |