あれはもう、ふた昔も前のことです。バックパックを担いで北米大陸を貧乏旅行していた私は、コロラド州のギフトショップで1枚の絵はがきに目が釘づけになりました。丸い耳をした小さな動物のかわいらしいこと! 裏にはPikaとありました。しかし私のハンディ辞書には載っていない単語でしたし、アメリカ人に尋ねても皆、知らないと言います。私にとってPikaは幻の動物となりました。
1ヵ月後、西海岸へたどり着いた私は、有り金をはたいてレンタカーを借り、オレゴン州の国立公園を訪れました。その帰り、すれ違う車もめったにない田舎で、ちょうど道路を横切ろうとしているスカンクの親子に出会ったのです。私は車を停め、3メートルほどの距離まで近寄って、手のひらサイズのスカンクたちに夢中でカメラを向けました。
そのときでした。走ってきたワゴン車の運転席から年配の女性が顔を出し、いきなり怒鳴るのです。
「何やってるの! あっちへ行きなさい!」
スカンクをいじめているとでも思われたのでしょうか? 私は、「ただ写真を撮っているだけです」と言い返しました。すると、
「母親はどこ? あなたに驚いて逃げちゃったんじゃないの? すぐにどきなさい、早く早く!」
そう言うと猛スピードで走り去ってしまいました。
なるほど、彼女の言うとおりでした。スカンクの母親は、私の車の接近と同時に子供たちを路上に置き去りにして、もと来た草地へ戻ってしまいました。だから私は、子供たちもすぐにその後を追うものと思い、路上にいるうちに写真を撮りたいとあわてていました。
しかし、子供たちは親の後を追いませんでした。きっと追えなかったのです。車が停まり、人間が近付いてくるというハプニングに、親も子もパニックになってしまったのでしょう。
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一刻も早く人間が姿を消さなければ、路上で右往左往している子供たちは車に轢かれるか、天敵に襲われるか、親に会えずに餓死するかもしれませんでした。
私はすぐにその場を立ち去りました。スカンクの子供たちが無事に母親に会えることを祈りながら。
こちらに悪意があるかどうかなんてどうでもいい。相手がどう感じているかが問題なのだ――彼女は、きっとそう教えてくれたのだと思います。
その後、私はフリーライターになり、仕事を通じてアメリカの自然や動物たちと接する機会を得ました。アメリカの国立公園では、野生動物とのつきあい方を教えてくれる無料のプログラムが毎日行われていますし、エサを与えることを禁じる法律なども整備されています。広大な園内を数多くのパークレンジャーが頻繁に見回っていて、訪問者にさまざまなアドバイスをしてくれます。悪質な行為を見つければ、その場で逮捕することさえあるのです。アメリカの人々の多くが野生動物との上手なつきあい方を心得ているのは、この国立公園システムと、そして大きな影響力を持つNGOのおかげだと感じました。
そんな環境の中で、私も多くを学ばせてもらいました。ふぁんくらぶのおかげでPika=ナキウサギの生態を知ることもでき、アメリカの生息地を訪れるチャンスにも恵まれました。しかし、それでも幻の動物に会う夢はなかなか叶いませんでした。
ようやく会えたのは、パークレンジャーから「岩になりなさい」と教わった翌日でした。その日私は、頭からすっぽりとモスキートネットを被り、蚊の猛襲にまんじりともせずに耐え、ガレ場の岩と化しました。そして数十分後、ついに1匹の小さなナキウサギが私のスニーカーをかすめて走り抜け、ふと振り向いて、「あれれ?」と私の顔を見たのです! 高揚する気持ちをぐっとこらえて岩を演じ続ける私は、その瞬間に、ナキウサギの虜になってしまったのでした。
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