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開発と地球温暖化により絶滅に向かうイリナキウサギ…市川利美
今回、アンドリュー・スミス先生の講演会でお話があった中国のイリナキウサギの絶滅の危機について、スミス先生の書かれた論文(『中国新疆ウイグル自治区に生息する絶滅が危惧されるイリナキウサギ(Ili pika; Ochotona iliensis)(ウサギ目ナキウサギ科) の劇的な減少』著者:Li Wei-Dong and Andrew.T.Smith)から、少し詳しくご報告します。
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「イリナキウサギ」は新疆ウイグル自治区の天山山脈に限定的に生息するナキウサギで、1983年に発見されて、1986年に新種として記載されました。最近10年間は研究されていなかったのですが、2002年と2003年の夏に、個体数センサス調査が行われました。
この調査は、かつて観察されたことがある全地点を含めた広範囲なものでした。この結果、生息していたという証拠は、調査した14地点のうちの6地点からしか得られませんでした。地域的には、6地域のうちの2地域で絶滅していたのです。イリナキウサギ個体群は、生息していた4地域のうちの3地域で減少しており、わずかに1地域だけが10年前と同程度の生息状態でした。
イリナキウサギの個体数が劇的に減少した理由としては、人間の活動と牧畜による悪影響ということがあります。過去には馬や羊は、3000メートル以上の高地でしか放牧されていなかったのですが、人口増による圧迫で、もっと高い場所で放牧されるようになり、ナキウサギの食料である草が少なくなったことと、牧羊犬によって捕食されるということが、大きな脅威となってきたのです。
2番目の理由として、地球温暖化があげられます。気温上昇に伴い、この地域でも天山山脈の氷河が加速度をつけて急速に後退して、万年雪の高度が上昇してきています。
他のナキウサギについても報告事例があることですが、イリナキウサギは標高が高い寒冷な地域に生息しているのですが、氷河期以降徐々に山頂近くの高い標高に後退してきています。場所によっては、今すんでいる断崖より上は平らな放牧地なので、それより上には移動できません。現在よりも気温が上昇すると、イリナキウサギは行く場所がなくなってしまうのです。
アメリカの研究者(McDonaldとBrown(1992))は、アメリカのグレートベイスンの孤立した山々の頂上に生息している哺乳動物が、地球温暖化によってその生息域を生息場が少ない標高の高い場所まで追い上げられ、その結果、広範な種の絶滅がもたらされるだろうと予測しました。(イリナキウサギがたどったのも同様な過程です。)
そして、その最初の証拠として報告されたのが、ビーバー氏による研究(Beever et al.(2003))です。彼の研究によると、グレートベイスンでは、アメリカナキウサギ(Ochotona princeps)の25の個体群が消失しているのです。彼は、「温暖化は、古生物学上の記録から示されているよりももっと速いスピードで消失をもたらしている。」と述べています。これをさらに強く一般化して、「アメリカナキウサギは、不幸なことに、炭鉱のカナリヤである」という人もいます。
同様に、カナダのユーコンでは、クビワナキウサギ(O.Collaris)が異常に積雪が少なかった暖冬が続いたため激減していました。イリナキウサギもまた、この現象の一事例といえます。
岩場ずまいのナキウサギは、一般的に地域個体群の絶滅に対して非常にもろいといえますが、イリナキウサギの場合は特にそれがあてはまります。岩場住まいのナキウサギは、生息密度が低い上に、繁殖力も低いために、個体群が小さいととても絶滅しやすいのです。地球温暖化と放牧による影響の競合が、この過程の進行をスピードアップしているといえます。イリナキウサギの断崖の生息地は高度に分断化されていて、近くの生息地からの入植(ナキウサギが移り住んでくること)で救済されることがないため、1地点での個体群消失は、地域全体を絶滅の過程に向かわせる結果となるのです。イリナキウサギが10年、20年前に生息していた地点の半分以上の地点でいなくなったという事実は、本種が急速な絶滅に向かっている兆候です。
スミス先生たちは、イリナキウサギのレッドリストの位置づけを絶滅危惧のランク上にあるVU(Vulnerable)からより絶滅の危険度の高いEN(Endangered)へ変更するよう推奨しています。
(次号では、アメリカやカナダのナキウサギと温暖化に関する研究について、さらに詳しくご報告する予定です。) |