>> つうしん


*ナキウサギつうしんの紹介


特定非営利活動法人 山田の里自然学校
理事長  奥 部 尚 美

 私が幼いころの次男に買い与えた学習漫画に、著者が次のようなあとがきを記しています。

 『ニホンカワウソがいなくなったって、だれもこまる人はいない。ウミガメが日本の海岸で見られなくなったって、人間のくらしにはたいした影響はない。そんなことよりは、お気に入りのテレビ番組が終ってしまうことのほうがまだ関心が高かったりする。それが人間世界の現実でしょう。(後略)』(註1)

 兵庫県は昨年、「コウノトリ」で大騒ぎになりました。コウノトリは国内においては絶滅、世界的にみても近絶滅類なので、それを人間の手で再び野生に還すという試みはすばらしいことです。放鳥直後の地元紙では、連日のようにカラー写真入りの記事が掲載されていました。多くの人がこの活動に関心を持つのは、とてもいいことです。ただ、これがいつまで続くのかということを考えると少し不安になります。コウノトリに限らず、自然保護や野生生物の保護に取り組む人は、日々、小さなことの積み重ねです。放鳥は大きな節目ではありますが、これから先、気の遠くなるような活動の通過点に過ぎないでしょう。しかし、直接保護に関わっていない人にとって、それは単に新鮮な話題でしかなく、ブームが過ぎ去れば、違うことに関心が移ってしまうかも知れません。

 私は、神戸の農村地域を拠点にして、主に小中学生を対象とした環境教育に取り組んでいます。小さな小さな自然学校です。ここでは、あえて具体的なこと―例えば、植物や動物に関する知識や環境問題の事例などを話さないようにしています。問われれば答えることもありますが、子どもたちにはまず、漠然と自然が好きになってもらいたいのです。ペットボトルの普及に伴う環境負荷を教えれば、子どもたちはしばらくそのことに関心を持ってくれます。どこかの国で油まみれになった海鳥の写真を見せれば、きっとつかの間、心を痛めるに違いありません。でも、それは子どもたちにとって、ほんの一瞬のことです。教えられた知識が時間の経過とともに曖昧になり、そのうち他のことに関心が移ってしまうのです。でも、好きになったらどうでしょうか。感性豊かな年頃に、自然の中でいっぱい遊んで、自然のことが大好きになってくれたら、きっと大人になっても、それはとても大切なものとなるに違いないのではないでしょうか。私は、平素、直接的な自然保護活動を行っていません。一過性の関心ごとではなく、自然に対して豊かな感性を持ち、環境認識の高い人を育てる活動をしています。いえ、育てるなどというのはおこがましいかも知れません。本当のところ、子どもたちと自然の中で遊び、笑い転げる中で、私も共に育っているのですから。
 自然保護には、安定した社会の仕組みと思想が必要です。保護するためにどうしてもお金がかかります。行政が、それを当たり前の予算としてくれたら、きっと多くの自然が保護されるでしょう。守ることが当たり前になれば、法律だっていっぱいできるに違いありません。そして、自然学校に来る子どもたちが、やがて大人になり、法律なんかなくたって自然を守ることが当たり前の社会をつくっていってくれたら・・・。多くの環境問題を抱えている現在、こんなことは夢のような話です。
 ニホンカワウソがいなくなったって、こまる人はいないかも知れません。むしろ、自分たちの生活がこまるから、と言って自然を壊してきたのが人間です。こまるかこまらないか、という視点ではなく、大好きな自然が失われていくのはとっても悲しいことなのだと思ってほしい、学術的価値や資源として貴重だから、ではなく、ニホンカワウソも、コウノトリも、ナキウサギも、好きだから守りたい、子どもたちの心の中にそんな思いを育みたい、と思っています。
                (註1) 「ドキドキどうぶつSOS!」吉川豊 作・画  理論社(2002年5月刊


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