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*ナキウサギつうしんの紹介


出逢い・なきうさぎを求めて・・・佐野高太郎





佐野 高太郎

キッカケは一枚の写真だった。日本における動物写真界のパイオニア、田中光常先生の作品集にアラスカで撮影された一枚のクビワナキウサギの写真があった。中学生だった僕は、それまでに2年間、南アフリカで生活していて、すっかり動物に魅了されていた。将来の夢は“動物写真家になる事”だった。
 その外国のナキウサギは、1本の草を輪のようにくわえていた。さっそく図鑑で調べてみると、それが日本にもいる動物だという事がわかった。しかしナキウサギの資料はなかなか見つからず、(当時まだナキウサギふぁんくらぶは出来ていない)わかった事は甲高い声でピチッピチッと鳴くこととか、ほとんどを地下で生活する動物だということ、大雪山系に生息すること、くらい。
 ナキウサギを見る夢が叶ったのは、19歳のときだった。少年の頃抱いた“動物写真家になる”という夢を捨てきれず、撮影の経験を積むために高校を中退して通信制の高校にはいった。動物の撮影には自由に使える時間が必要だ。月に一度の通学の合間を縫ってギリギリいっぱいの1ヶ月半の日程。買ったばかりのジムニーに若葉マークを付けて、車で寝泊まり&自炊をしながらの撮影旅行だった。
 どうやってナキウサギを探せばいいのか、全然わからなかった。しかし僕には一筋の光が見えていた。東京の大手書店で求めた登山地図に、ちいさく「ナキウサギ生息」と書かれたポイントをみつけていた。それを頼りにその山を登ってみた。車の購入にお金を使ってしまっていたため、機材と言えば中学のころから使い続けたボロボロのカメラと、まだ値引き交渉が効いた時代に大型カメラ店で買った安物の400ミリレンズだった。いまから考えるとその機材の重さといい、使い勝手といい、かなり悪かった。そのときの山行で見られるとは考えていなかった。僕はただ、ナキウサギが住んでいる環境とか、食痕とか、そう言うのが見られればそれでよかった。
 それは深い原生林だった。苔むした針葉樹林の倒木たち、苔の間から顔をのぞかせる岩たち、寒くてぴりっとした空気。5月が終わろうとしているのに、まだ雪が残っている。ダウンジャケットが買えなくて重ね着とレインコートの恰好では震えるほど寒かった。小雨がふる、濃い霧のなかのトレッキング。霧のなかから次々と表れる木々や岩の林を抜け、やがてぽっかりと開けた場所に出た。ナキウサギのガレ場だった。その岩のひとつに腰を下ろし、ぼーっとしていた。そこにいるだけで心地よく、そんな風景と、空気と、雰囲気を楽しんでいた。そして心のどこかでナキウサギが出てこないかと考えていた。
 野生動物を撮影するときの僕にしては短い3時間の待機だったが、体が冷えてきたので荷物をまとめて帰る準備をしていた。そのとき、まるで風景を切り裂くような、聞いたこともないような、鋭く甲高い声が鳴り響いた。キイッキイッキイッ。声のする方に目をやると、ナキウサギが目の前の岩に出てきて、不思議そうな顔をしてこっちを見つめていた。


写真:霧のかかる日、ナキウサギがよく鳴く。
(写真集『北海道-リスとナキウサギの季節』
P24より)



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