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*ナキウサギつうしんの紹介


出逢い・なきうさぎを求めて・・・佐野高太郎



厳冬期の思い出

佐野 高太郎

厳しい自然の中で越冬している動物たちの知恵やたくましさを目にすると、それだけで圧倒される。シカは木の皮をかじって飢えをしのぎ、エゾリスはあの手この手で貯食した餌を大事そうに食べていた。シマリスのように冬眠する者もいる。ナキウサギはどうしているのだろうか?
情報によると、彼らは地下で生活しているが、出てくることを目にすることは不可能。2月、厳冬期のガレ場に来る写真家はいなかった。僕も当初はガレ場に通うつもりではなかった。
しかし偶然、ガレ場の近くを通りかかったときに車の調子が悪くなり、夕方の峠越えを避けるために、おなじみのガレ場にちかい道の脇に車を止め、一泊することにした。このポイントはナキウサギの声が聞こえる場所だ。
ナキウサギの声を聞く目的ではなく、ただ寒さをしのぎ、凍らないように布団に包まっているとき、甲高い声が響いた。キイッキイッキイッ。ナキウサギの声。彼らは表に出てきているのかな?氷点下35度といわれた夜、ナキウサギを見たい気持ちに火がついた。
予定を変更し、そのポイントに車を停め、待ち続けた。天気が崩れていないときを狙って、ガレ場に通った。荷物は少なくするために、いつも使っている超望遠レンズと三脚を持たず、中望遠の手持ち撮影に切り替えた。一枚の真冬のナキウサギが撮りたかった。
足は雪の中に腰まで埋まり、3歩、歩いただけで息が切れた。時には這いつくばりながら普段の数倍の時間をかけてガレ場にたどり着いた。ガレ場は普段とは別世界だった。雪ですっぽり包まれ、純白の広がりをみせていた。ナキウサギに会いたくなった。と、その瞬間、キイッキイッキイッ、ナキウサギの声が響き渡り緊張が走ったが、結局その日はお目にかかれなかった。
それ以降ナキウサギはなかなか出てこなかった。カメラとバッテリーは30分おきに服の中にいれ、凍るのを防ぎ、ダウンジャケット上下の中にホッカイロを毎日8個詰め込み、一番上に
ゴアテックスのジャケット上下を着ていた。息は吐くたびに凍り、皮膚の感覚はすぐになくなった。
2週間たち、やはりナキウサギにはお目にかかれないのだと心の中で完全に諦めた。その瞬間、キイッキイッキイッ、ナキウサギの声が響いた。あわててジャケットの中のカメラをレンズに装てんし、構えてから数分でなんと、ナキウサギは出てきたのだ。ちょろちょろっと純白の雪を歩き、樹氷がついた高山植物に鼻をつけた。もぎ取ろうとしたらしいがすぐ諦め、また穴の中にもぐった。そしてまた出てきて30秒くらい日光浴をして、また穴の中にもぐってしまった。その2回で終わりだった。狙い通り中望遠レンズで撮れる場所だった。しかも大きなレンズじゃないことが功を奏して、背景のわかる写真が撮れた。
確かな手ごたえを掴み、僕は山を降りた。その翌日、信じられないような大雪が降り、ガレ場には行くことが出来なくなった。積雪量が僕の身長を超えていた。
あれから10年近く経った今も、あの特別な出会いは忘れることがない。


写真集『北海道 リスとナキウサギの季節』(かもがわ出版)P101 純白の雪の中、美しい冬毛のナキウサギを見た



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