私たちは、1995年より、日本では北海道にしか生息していないエゾナキウサギの保護活動を行っている団体である(会員2424名)。

今年10月11日及び12日、ナキウサギふぁんくらぶ及び十勝自然保護協会のメンバー4人で、様似・えりも区間のナキウサギ調査を行ったところ、ルート沿いのナキウサギ生息地が人為的に荒らされ破壊されていた。

現地は、過去二回の緑資源公団によるアセスにも示されておらず、私たちが今年6月の調査で見つけ、報告していた場所である。

私たちは下記のような総合的な検証の結果、この破壊が人為的なものであること、緑資源機構が行った可能性が極めて高いと考えている。

そもそも大規模林道建設事業は、合理的目的がなくして巨費を投じ自然を破壊する行政行為であり、これまでもあり方検討委員会や期中評価委員会宛に意見書や口頭で、私たちも他の自然保護団体と共に建設反対の意見を表明してきている。今回の問題は、大規模林道が抱える種々の問題点の中でも、とりわけ建設続行の根拠となったアセスのずさんさを露呈するものである。不都合な事実は調査において見落としておきながら、建設をごり押ししようとし、後に調査の不備を指摘されて建設続行が危うくなると、証拠隠滅を図るという前代未聞のきわめて悪質な行為である。たんに自然保護団体のみならず、多くの国民を欺くもので、自然の大破壊であるのみならず、民主主義への敵対行為である。

このような事態を引き起こした林野庁と独立行政法人緑資源機構の責任はきわめて重く、今後、この問題の真相を明らかにする責任があると考える。

以上より、私たちは北海道の3路線すべての建設を即刻中止し、白紙撤回することを強く求める。


一   事実経過

1997年4月林野庁は「様似・えりも」区間の休止を決定する。
1998年12月森林開発公団は様似・えりも区間について事業継続は困難とのアセス(平成10年版)結果を公表。ナキウサギや国の天然記念物である猛禽類など希少動植物に影響を与えるため、「適切な保全対策を講じることは困難と考えられる。」
2001年6月緑資源公団は同区間についての「環境保全調査報告書」(アセス・平成13年版)をまとめる。
ナキウサギの大きな生息地がある登り沢林道の拡幅を中止し、チャツナイ町道に変更。エゾナキウサギについては、「確認した生息地は計画路線から1・5キロ以上離れていることから、事業の立地および林道の存在が及ぼす影響の程度は軽微と予測される。」他の動植物に与える影響も軽微と評価。猛禽類についてはモニタリングを継続する。
2001年同区間の工事を再開。
2003年6月8日ナキウサギふぁんくらぶが同区間ルート付近のナキウサギ生息調査を実施。道路からおよそ50メートルの地点にナキウサギの貯食を二ヶ所発見。
6月19日ナキウサギふぁんくらぶは、整備のあり方検討委員会宛ての意見書で新たな生息地について指摘。
8月  9日同じく整備のあり方検討委員会の意見聴取会でも報告。 
9月緑資源公団よりナキウサギふぁんくらぶに、生息地のポイントを教えてほしいと電話がくる。秋の再度の調査を終了したら知らせると回答。
その後、他団体とも協議。警戒しつつも、原則として情報は双方オープンにしていくことを確認。
9月22日緑資源公団北海道地方建設部部長柴田氏が、アポなしで、ナキウサギふぁんくらぶ代表市川利美の勤務先に突然、来所。「おかしなことをすることはないので、生息地のポイントを教えてほしい」と懇願。専門家がルート周辺を探したが見つからなかったためどうしても具体的に知りたいとのことだった。再度の調査まで待ってほしいと伝えたが懇願されたため、ポイントを示した地形図のコピーを手渡す。このとき、柴田氏より、近く期中評価委員会の意見聴取会が開催されることが非公式に伝えられた。
10月  9日大雪と石狩の自然を守る会が現地を視察。
10月10日緑資源公団及び、専門家が現地を調査。
10月11日夕方及び12日午後
ナキウサギふぁんくらぶが当該生息地を調査。複数の貯食に適した岩の下の穴に黒土が埋められ、貯食どころかナキウサギがまったく通ることができない状態になっていた。トドマツの林床は全体に不自然に荒らされていた。
10月14日静内町にて、期中評価委員会の意見聴取会。ここで、生息地が破壊されていた事実を公表。緑資源公団北海道地方建設部にも口頭で抗議。

二 当該生息地発見とその意義

私たちが今年6月8日に見つけた新たなナキウサギ生息地は、道路予定地からおよそ4〜50メートル離れたトドマツの林の中である(道有林155林班55小班)(地図Aを参照)。

林床に苔むした岩が点在していて、いわゆる「ガレバ」(岩塊堆積地)とは異なる景観であったが、岩穴の下を丁寧に覗いていくと多くの穴は地中に深く続いていて、ナキウサギが巣穴、貯食場(冬越しの食料を蓄えておく場所)にするのに適した岩穴がたくさんあり、二箇所に貯食を見つけた。一つの穴にはフッキソウ、他の岩穴にはシダが蓄えられていた。まだ、6月なので、貯食された植物はそれぞれ数本しかなかった(貯食は通常晩夏から秋が活発)(写真参照)。

この区間の建設が一時休止になったのは、登り沢林道沿いにナキウサギの生息地があるからである。当初のアセス結果は、「適切な保全対策を講じることは困難と考えれる。」と結論づけていた。ところが平成13年度の再度のアセスでは一転して、「影響は軽微」と、建設を推進する内容になっている。

工事の再開はマスコミにも報じられることなく進められていたので、私たちも、今年春まで再開の事実を知らなかった。この区間は当然に中止になると思っていた。再開の事実を知った私たちは、急遽、今年6月に調査し、アセスの結果のずさんさを知ったのである。このアセスが重要な生息地を見逃していた事実は、他の動植物調査全般についての不十分さを推測させる。こうした不十分な調査で、ルートを変えたから動植物への影響は軽微と安易に結論を出して工事を再開したことは問題である。

もちろん、このまま本区間の建設を進めると、当該ナキウサギ生息地は大きな影響を受けるから、前記のナキウサギ生息地の存在は、大規模林道の建設続行にとって大きな妨げになりうる。

三   なぜ人為的破壊といえるか

  1. 岩の下に土が埋め込まれていた点について
    1. トドマツの林床全体は乾いているのに、問題の複数の岩の下は土がやわらかく黒くむしろ湿りけを帯びていた。
    2. それらの岩の下には松の枯れ葉がなく、黒い土がむき出しになっていた。
    3. 岩を一つだけそっと持ち上げてみると、簡単に持ち上がって、その下も黒い土で埋まっていた。これらの岩は苔むしていて、長い年月定着していたであろうから、この状況はありえないことである。
  2. 黒土からフッキソウが出ていたが、それはただ土に差し込んだだけで、根を張っている状態ではなかった。フッキソウの茎の下の方の葉が黒土の下に埋もれていた。自然状態ではありえないことである。
  3. 私たちが10月に再調査したのは、貯食が活発な時期に調査するほうがナキウサギの生息実態を把握しやすいからであるが、ひとつも貯食が見つけられなかった。自然状態では、6月にあった貯食場が10月に二つともなくなっているということは、あまりありえないことである。
  4. 岩場全体に間伐材が散乱し、苔むした岩の一部が転げ落ちているなど、岩場を意図的に荒らした形跡があった。台風が原因でないことは、後述のとおり。

四   生息地破壊の効果

  1. その場所を縄張りとしていたナキウサギの生存が危ぶまれる。
    1. これから冬を迎えるのに、これから新たに貯食したのではまにあわない。植物は雪の下に埋もれるし、仮に今から刈り取って貯めてももはや十分に乾燥させることができないであろうから、春まで保存できないと思われる。
    2. 貯食に適した岩穴は一つの縄張りにたくさんはない。だから、ナキウサギはだいたい毎年同じ岩穴1〜2箇所に貯食するのである。そこが完全にふさがれてしまうと、他の岩場に新たな縄張りを形成しなければならないが、生息に適し、かつ、他の個体がいない岩場が見つかり、そこまで無事移動できるとは限らない。
  2. 今後生息可能かどうかも問題である。
  3. 日高山脈南部の低い標高のナキウサギ生息地は学術的にも貴重であるが、そこが破壊された損失は大きい。

五   だれの仕業か

  1. 北海道ではないようだ

    この場所が道有林であることから、10月15日夕方、まず間伐の実施について道庁道有林整備グループ(赤間氏)に問い合わせたところ、間伐を実施している日高森作りセンターを紹介された。担当者の森林整備課の池野氏に電話でお話を伺った。

    それによると、この小班におけるツル切り・除伐(間伐とほぼ同義とのこと)は4月ころ計画され、7月2〜5日の4日間実施された。施業は広尾の会社が下請けで行った。作業内容は、トドマツの成長の妨げになるツルや木を取り除き、大きいものはカットしてそれらを数箇所にまとめて束ねておくものである。森作りセンターではその林がナキウサギ生息地であるという認識はなかったが、その周辺にナキウサギがいることは知っており、作業をするときにも岩などを動かさないように注意は払うようにしているとのことである。彼らはその後この場所でなんら作業はしていない。

    ところで、写真でもわかるように切られた木の切り口は非常に新しく、かつ切られた木は周辺の植物を押し倒すようにその上に散らばっていた。仮に7月のツル切り除伐のままであるとすると、切られて横たえられた木の上を草や枯葉が覆っているはずである。除伐され、それが林に広げられたのは、ごく最近のことであることがわかる。大規模林道視察のために10月8日、この周辺を回った大雪と石狩の自然を守る会が見たときにも、特に最近間伐したようすはなかったということから、間伐はその後の可能性が高いといえる。岩穴に土を埋めることは、森林の施業とは無関係で、しかも彼らがあえてこのようなこととする必要性もない。

    以上より、これは道有林の施業としてなされたものでないといえるだろう。

  2. 台風や地震が原因ではない

    池野氏によると、氏は作業結果の確認のため、8月にこの林に入っている。それは台風のあとだったにも関わらず、除伐材は散乱していなかったという。雨や台風程度で除伐した木が動くものではないともいう。もちろん、強風その他で新たに木が倒れることはありうるが、現地に散乱していたのは明らかに伐採された木であったから、強風その他が原因とはいえない。したがって、除伐材の散乱もごく最近人為的になされたものであるといえる。

  3. 般人の可能性もほとんどない

    現地はチャツナイ町道からも登り沢林道からも一般人は容易には入れない。ゲートに鍵がかかっているので、車では進入できず、一般人がわざわざ現地まで歩いて、故意に岩の下に土を入れることは理由がないし、ありえないことだろう。

  4. 緑資源公団が関与している可能性が極めて高い。その理由は、下記のとおりである。
    1. 前記事実経過のとおり、緑資源公団は執拗に、ポイントを知りたがっていた。北海道の最高責任者である部長自らが自然保護団体の代表者の職場を事前のアポなしで訪問したこと自体、普通ではない。
    2. 緑資源公団は、情報の入手を急いでいたが、すでに6月と8月に新たな生息地の存在は伝えてある。しかし、9月の半ばまでは何ら問い合わせがなく、期中評価委員会による現地視察および意見聴取会の開催が決まったころから、急に情報をほしがった。ナキウサギ生息地の保護が目的なら、すでに工事は進行しているのだから、6月の段階で情報を聞きに来ているはずである。
    3. 9月22日に彼らにポイントを教えたが、それ以外にこの場所を知っているのは自然保護団体のメンバーだけである。柴田氏にポイントを教えてほしいと懇願されたとき、再度調査してからにしたいこと、札幌からでかけて調査するとなると10月の連休になる(11〜13日しかない)ので、その後にしてほしいと伝え、私たちが再度調査に入る日程まで教えていた。
    4. 建設続行に障害になる生息地をなんとかしたいという公団の動機は強いといえる。
    5. 故意でするなら、このようにすぐわかるようなやり方はしないと通常は考えられるが、緑資源公団は自然についての専門家は少ないだろうから、カモフラージュがうまくなくても不思議ではない。

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