私たちは、1995年以来、エゾナキウサギの保護と天然記念物の指定を目指して活動しています。(現在、全国の会員数2659名)。

昨年11月、私たちは文部科学大臣にお会いし、エゾナキウサギの天然記念物指定を求める4万3433筆の署名用紙を手渡し、指定を要望しました。

しかしながら、その後、貴委員会は文化庁からの問い合わせに対し、指定について極めて消極的な回答しかしなかったため、指定は見送りの公算が大きいと報道されています。

私たちは、貴委員会のこの対応に大きな疑問と憤りを覚えざるを得ません。

なぜなら、第一に、北海道も北海道教育委員会(以下、両者をあわせて「北海道」と称する。)も、エゾナキウサギが学術的にも貴重な生きものであり、保護の必要が高いことは認めています。そうであるなら、国の天然記念物に指定されることは、喜ばしいことであり、市町村に問い合わせるまでもなく、北海道自らが積極的に行動して当然だからです。

北海道は、なぜ、指定に消極的なのでしょうか。知床が世界遺産に指定されて以来、北海道のもつ魅力の第一として、まだかろうじて残されている「原生的な自然」の存在がますますクローズアップされてきています。氷河期の生き残りであるエゾナキウサギは、歴史の生き証人であるばかりか、風穴や高山植物が多く見られる「ガレ場」という特殊な環境でしか生きられません。ナキウサギを保護することは、こうした特殊な自然環境を保護することにもなるのです。

北海道が率先して守るべきもの、それがエゾナキサウギなのです。保護を市町村の責任とするべきではありません。

疑問と憤りを覚える第二は、北海道は私たちが文化庁に提出した4万3000人を超える署名の存在、すなわち指定を求める全国の国民の声を知りながら、それについては全く耳を傾けようとしなかったことです。エゾナキウサギは、北海道のみならず国民にとって貴重な自然遺産であることをあらためて認識すべきです。

第三は、こうした重要な問題を10市町に問い合わせをしただけで結論を出したことです。

エゾナキウサギの生息地は、30を超える市町村に点在しています。この中で、どういう基準で10市町を選んだのか不明です。

例えば十勝管内では、大きなナキウサギ生息地を抱える鹿追町や上士幌町などは無視し、新得町にしか問い合わせをしていません。新得町は、私たち自然保護団体の声を無視して、3年連続してナキウサギ生息地でジャパンラリーを強行している町ですから、積極的に保護する姿勢がないことは当然です。

このように、10市町の選び方はとても恣意的です。

第四は、電話による問い合わせという調査方法をとったことです。各市町村がエゾナキサウギに対してどのような姿勢かは、町長、議会、町民といった全体の意向をふまえるべきです。そうした調査を経ないでなされた電話での回答は信頼性にかけます。

新得町では、担当係だけで対応したため町長や教育委員長は調査自体を把握していなかったとのことです。他の市町でも同様だと思われます。

第五は、北海道は保護は充分であると主張していますが、その根拠は不明です。

北海道があげる、大雪山「天然保護区域」(天然記念物)は、大雪山系のごく一部です。また、指定が重なることを否定する理由はありません(カラフトルリシジミ・ウスバキチョウなどの高山蝶は指定が重なっています)。

アポイ岳の指定は高山植物群落であり、夕張岳も高山植物群落と蛇紋岩メランジュ帯が指定されているのみです。夕張・芦別岳はレッドデータブックで絶滅の恐れのある地域個体群になっています。しかし、絶滅の恐れがあるにも関わらずレッドデータブックに記載されるだけでは何の保護もないのです。

このような状況で、北海道は何をもって保護は充分であるというのでしょうか。

ナキウサギが保護されていないのは、北海道が一番よく知っていることです。

えりも町の道有林では集材路を新設する際にナキウサギが生息するガレ場を壊してナキウサギがすみかとして使えないようにしてしまいました。北海道自らが生息地を保護するどころか破壊している例です。

また、北海道が負担金を出している緑資源幹線林道(大規模林道)の建設、前述のラリージャパン、開発局の美蔓ダム建設計画などは、今まさにナキウサギの生息を脅かしているのです。

大雪山国立公園の中に計画された道道、いわゆる「士幌高原道路」や、「日高横断道路」など世論の力で中止に追い込んだとはいえ、いずれもナキウサギの生息地を大きく脅かす計画でした。このような例は他にもたくさんあります。


以上より、私たちは、北海道がまず今回の回答を撤回した上で、責任をもって主体的にナキウサギを保護する立場に立ち、天然記念物指定に積極的に行動することを強く求めます。

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