2006年12月18日、ナキウサギふぁんくらぶを代表して、代表である私と東京近郊のメッセンジャーである井上百合子、北山繁、近野里美、原佐生子、原美譜記の計6名が、文化庁文化財部記念物課主任文化財調査官の桂雄三さんとお会いして、天然記念物指定の手続きや効果に関する文化庁長官宛の当日付質問書を手渡し、それについて直接、回答をもらうことができました。今後の天然記念物行政と法手続きを理解する上で、非常に重要な回答が得られたと考えています。

年末の繁忙期であったにも関わらず2時間あまり丁寧に答えていただいた桂調査官に感謝すると同時に、それまでの文化庁に対する不信感もかなり薄まりました。なお、文化庁からは、田中基久さんも同席しました。

以下、最初に、文化庁が今回認めた内容を要約します。次にそれらについて、詳細な説明を加えます。


《   概要   》

これまで文化庁と北海道教育委員会は、「天然記念物には『種指定』と『生息地指定』の二つがある。『種指定』の場合はその動物の捕獲、殺傷が禁止されるのみで、生息地は保護されない。『生息地指定』の場合は、指定された地域に限定されるものの、生息環境が保護され現状変更には許可がいる」という説明をしてきました。

しかし、今回の文化庁の回答により上記の説明は、下記のとおり大きく修正されたことになります。

1 天然記念物の定義について

法律上、『種指定』『生息地指定』の区別はない。これまでの指定において、地域を定めないで指定する場合と地域を定めて指定するという2つの指定の仕方が事実上行われてきたにすぎない。

野生動物を天然記念物に指定するときは、当然に生息地の保護も含まれる。種指定か生息地指定かは問わない。生息地の保護なくして野生動物を保護することはできないし、法律上も生息地保護を求められている。

2 指定の効果について

(1) 天然記念物の現状を変更し、またはその保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは、文化庁長官の許可を受けなければならない。種指定か、生息地指定かは問わない。

(2) 国の関係各省各庁の長が、天然記念物の現状を変更し、またはその保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは、文化庁長官の同意を求めなければならない。種指定か、生息地指定かは問わない。

(3) 天然記念物の現状を変更し、またはその保存に影響を及ぼす行為をして、これを滅失し、き損し、又は衰亡するに至らしめたものは、5年以下の懲役若しくは禁錮または30万円以下の罰金に処する。種指定か、生息地指定かは問わない。

3 指定前の手続き

(1) 市町村の同意は、指定のための法的要件ではない。

(しかし、地元の協力が必要であることを理由に、市町村に対する詳細すぎる意向調査を正当化している。)

(2) 「土地所有者の承諾や国及び地方公共団体の関係者の了解の取り付、指定前の調査や指定後の保存管理計画の策定、国土の開発、その他公益との調整は、指定のための要件ではない。指定の事前手続きとしては文化財保護審議会への諮問が必要とされているに過ぎない。」という私たちの主張に反論はありませんでした。

また、道教委が土地所有者の同意や公益との調整は、市町村に義務があるとしていることについて、文化庁は、市町村には義務がないこと、道教委が書面で市町村にすべて義務があると明記していることは、指定を要望する市町村への嫌がらせになりうることも認めました。


4 エゾナキウサギの指定基準充足について

エゾナキウサギは、指定要件の核心である「学術上貴重でわが国の自然を記念する」という天然記念物としての条件は充たしている。このことは、花井調査官の回答においても認められている(1997年)。


《   説明   》

1 天然記念物の定義〜「種の指定」と「生息地指定」

従来、文化庁及び北海道教育委員会は、指定方法には大きく分けて2通りあり、@ 動物の「種」を「地域を定めず」指定する「種指定」の場合、指定された動物はどこにいても保護されるが、環境に対する規制は特にない。A 動植物の「生息地等」を「地域を定めて」指定する「生息地指定」の場合は、指定地では生息環境を含めた保護が図られているとしています。

しかし、文化財保護法は、種指定と生息地指定を区別しておらず、動物が指定された場合は、当然に生息地、繁殖地及び渡来地も指定対象に含まれます。文化財保護法は文言上、種指定と生息地指定を区別していませんし、かえって、第2条では、「動物(生息地、繁殖地及び渡来地を含む)」とあります。「動物または生息地」とは書かれていないのです。また、野生動物の保護については、生息地、繁殖地など生息環境ごと保護しなければ、「保護」の実効性はありません。

文化庁もこのことを認めました。しかし、実務においては、種指定の場合、生息環境は保護されていません。

「広域に分布したり、移動性が大きいカモシカ、ヤマネなどが指定されたとき、土地などをいろいろ規制するための理解が得られなかった。そこで、今のようになったということがあるかもしれない。」「今後、国民のみなさんに理解されてそうなればすばらしい」とのことでした。

私たちの考えと意見が一致したのはたいへんうれしいことです。しかし、今回私たちが質問を突きつけるまでは、 国民には全く違う説明をしておきながら、国民の理解が必要というのは虫がよすぎます。以下の点も含めて、文化庁としては、国民と自治体に、天然記念物の本来あるべき姿と正しい手続きと効果を示し、その実現に向けて行動すべきです。

2 指定の効果

天然記念物に指定された場合、どのような効果があるかに関し、文化財保護法は大きく3つの効果を認めています。

  1. 史蹟名勝天然記念物に関しその現状を変更し、またはその保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは、文化庁長官の許可を受けなければならない。(ただし、軽微な場合等例外はある。)(125条1項)
  2. 次に掲げる場合には、国の関係各省各庁の長は、あらかじめ、文部科学大臣を通じ文化庁長官の同意を求めなければならない。(168条1項)
    1 史蹟名勝天然記念物の現状を変更し、またはその保存に影響を及ぼす行為をしようとするとき。
  3. 史蹟名勝天然記念物の現状を変更し、またはその保存に影響を及ぼす行為をして、これを滅失し、き損し、又は衰亡するに至らしめたものは、5年以下の懲役若しくは禁錮または30万円以下の罰金に処する。

(196条第1項)

従来、文化庁は、これらの効果は、種指定の場合には及ばないことを前提とした下記のような説明をしてきました。

「『種指定』は、地域の制限が無いので国内であればどこに生息しているものであっても天然記念物として保護を図らなければならない。しかし、その規制は動物の捕獲や殺傷など個体の生存に影響を及ぼす行為に限定され、生息環境の保護には及ばない。したがって、巣穴を破壊するなど生存に大きな影響を及ぼすような行為を行っても、動物そのものを捕獲殺傷しない限りは法的には差し支えないことになる。『生息地指定』は、指定された地域内では天然記念物として手厚く保護され、その生存に影響を及ぼす行為も含めて生態系全体に強い規制がかかる。しかし、その規制は指定地の中に限定され、指定地の外には及ばない。」

しかし、上記T〜Vの条文は、『種指定』か『生息地指定』かを問わず、すべての天然記念物に及びます。したがって、例えば巣穴を破壊するなど保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは、自治体や一般人のときは文化庁長官の許可、国家機関のときは長官の同意が必要です。たとえ種指定であっても、開発で生息地を壊してその場所の動物を衰亡するに至らしめたときは、処罰されることになります。法は種指定か、生息地指定かは区別していないからです。

文化庁もこれを認めました。ただし、実務がそのように運用されていない点が大きな問題です。

文化庁は、「現実にそういうことを機能させるための強大な権限を持っていないし、相手もあることだからむずかしい」としています。そして、「すべての関係する行政がそういう理解で動いていくのが理想的だ」といいます。確かにそうです。しかし、文化庁は天然記念物保護が重要な仕事です。許可、同意なく開発するものに対して毅然として対処すべきです。それだけの法律的な権限をもっているのです。エゾナキサウギが指定されるときには、ぜひ文化庁の権限を強化して法の趣旨を徹底する必要があります。そのためであれば私たち国民も協力していきます。


3 指定前の手続き

(1) 市町村の同意

昨年、私たちが文部科学大臣に会って指定を要望した後、文化庁は道教委を通じて市町村の意向調査をしました。そのやり方に大きな問題があり世論の批判があったため、現在、道教委によって再度の意向調査がなされています。

しかし、市町村の同意は、指定のための要件ではありません。条文にそうした要件がないことは文化庁も認めています。そして、地元の協力なしでは文化財の保護はありえないことから、条文上というより、「事実上欠かせない要素」であるとしています。

道教委は、保護管理責任を負うのは地元であるから市町村の同意も必要であると主張しています。

この「保護管理責任」の内容について文化庁に質問したところ、具体的な説明はなく、「問題がなければ保護管理も機能しない。何か問題があったときに保護管理義務がでてくる。その際、市町村に窓口になってもらい、連携をとる」という回答でした。

たしかに市町村の協力は必要ですが、実際にはたんなる「協力」や「窓口」以上のことを市町村に要求しています。これは道教委による「再度の意向調査」の内容からも明らかです。市町村に、「指定前の調査や保護管理計画の策定は地元が行う」と説明したり、短期間でナキウサギの分布調査をさせたりしているのです。「調査」や「保護管理計画」は本来、国や北海道が行うべきことです。しかし、国や道教委は何もせず、市町村にすべてを丸投げしようとしています。このいわれなき責任の押し付けが「市町村の同意」であり、そのための意向調査になっています。

(2) 所有者の承諾や公益との調整

指定前の手続きについて、従来文化庁は、法文化財保護法が、「文部科学大臣は、」「指定にあたって関係者の所有権、鉱業権、その他の財産権を尊重するとともに、国土の開発その他の公益との調整に留意しなければならない」

(第111条)としていることから、財産権の尊重や公益との調整が必要で、ナキウサギはそれがないから指定されないとしてきました。

また、道教委も、市町村への説明で、@土地所有者の承諾や国及び地方公共団体の関係者の了解の取り付け、A指定前の調査や指定後の保存管理計画の策定、B国土の開発、その他公益との調整の3つの事務が必要であり、それがないと指定されないと言い続けていました。しかも、@からBの事務は原則として地元(おそらく市町村)が行うとし、国の義務については全く触れようとしていません。

しかし、財産権の尊重も公益との調整も指定の法的要件ではありません。文化財保護法で指定の事前手続きとして必要とされているのは、文化財保護審議会への諮問だけです。@からBは、指定要件ではないのです。指定は、強制的な性質の処分行為ですから、土地所有者の承諾も不要です。

また、@からBについて、地元自治体に法的義務はありません。指定にあたって財産権を尊重し、公益との調整に留意しなければならないのは、指定権者である文部科学大臣なのです。

ちなみに、自治体の責任の根拠として、道教委や文化庁は第3条を持ち出しますが、これは文化財を尊重すべきという抽象的な既定である上、国と自治体に向けられた規定で自治体にのみ責任を負わせる根拠にはなりません。

特に、@の国の関係者の了解やBの国土の開発との調整をなぜ、自治体がしなければならないか、理解に苦しみます。

この点について、文化庁は、市町村に義務がないことを認めました。しかも、現在道教委が、市町村に対してこれらを市町村がやらなければならないと文書で説明していることに対して、「そんなにたいへんなら、やらないということになる。」と、指定を要望する市町村への嫌がらせになることも認めました。


4 エゾナキウサギの指定基準充足について

文化庁は、エゾナキサウギが「学術上貴重でわが国の自然を記念する」という天然記念物としての基準は充たしていることを、今回あらためて認めました。そして、「学術的価値があることは、指定の要件の核心である。」ということも確認できました。

*****

桂調査官とはこれ以外にもたいへん有意義な意見交換をさせてもらいましたが今回は指定手続きに関わるやりとりについてのみの報告とします。

最後に、文化庁には調査官が3名しかいないと知って、私たちはたいへん驚きました。また予算もたいへん少ないため、現場を見たくても出張費が確保できないとのことです。これでは天然記念物保護行政もたいへんです。文化庁は、予算と人材をきちんと配分すべきです。

私たちのエゾナキサウギの天然記念物指定を求める運動が、単に指定を求めるだけではなく、以上のような文化財行政のおかしな点を国民全体に明らかにして、天然記念物の制度が、「野生動物が絶滅に至る手前で保護される」制度として有効に機能できるよう、今後も問題提起を続けたいと考えます。

以上

←TOP     |     2007年へ     |     活動日誌一覧へ