要望書

一   要望事項(大綱)(詳細は五・六・七に記載)

  1. 北海道大雪山国立公園特別地域となっている石狩川源流部の国有林において2009年に行われた、

    1. 天然林等の違法伐採=盗伐の実態

    2. 網の目のように敷設された違法集材路と土場作設のために失われた樹木と損なわれた森林生態系の実態

    を厳格に再調査し、その原因を明らかにし、通達の見直しを含めた違法伐採=盗伐防止の対策を立てること

  2. 北海道の国立公園内の国有林は、木材生産の場ではなく、豊かな生物多様性が保全されるべき森林である。今後は一切の伐採を中止し、国立公園の周囲の国有林もバッファゾーンとして生物多様性の保全を最優先させる管理に努めること

二   これまでの経緯

1   日本森林生態系保護ネットワーク(CONFE)の活動について

CONFEは、日本各地の緊急性の高い森林生態系保護・保全を目的として、全国の自然保護団体によって2008年3月に結成された。沖縄やんばる、熊本路木ダム予定地、広島細見谷渓畔林、北海道の大雪山国立公園をはじめとする各地の森林の調査、保護活動を精力的に行っている。

CONFEに加盟するNGOが、結成前から、道内の国有林を調査し、違法な森林管理を問題にしてきた例を2つあげる。

1)上ノ国の違法なブナ天然林受光伐

2005年秋に北海道桧山郡上ノ国町のブナ天然林が受光伐の名目で伐採されたが、越境・違法伐採であることをNGOによって指摘されたため、林野庁は二度の調査の結果、合計1661本の伐採木の約半数の800本が違法伐採だったことを認めた。

2008年3月、林野庁は森林計画を変更し、現在は道南のほぼ一切の天然林伐採が中止されている。

2)大雪山国立公園内ホロカ・タウシュベツにおける天然林皆伐

大雪山国立公園内の国有林が2005年、風倒木処理を名目に大規模に皆伐されていたことがNGOの調査でわかった。皆伐され消失したのは65 ha、10,981?で、主として天然林である。皆伐跡地の山の斜面は大規模な地表改変が行われた。重機ですべての樹木、植物を根こそぎ除去したため、森林の回復が著しく困難になった。タウシュベツ上流の皆伐地では、大量の砂利を沢に埋めて作業道を拡張したため、沢は原型を失った。このように森林生態系、生物多様性に重大な影響を与える行為が国立公園特別地域で行われたことに対し、森林法、自然公園法にも違反するとして、NGOは抗議を重ねた。現在、東大雪支署管内で天然林伐採はほとんど行われていない。

2   大雪山国立公園内・石狩川源流部における違法伐採の発見・摘発の経緯

ここ数年、石狩川源流部における国立公園特別地域において、凄まじい量の樹木が伐採されていることを憂えた上川町民の訴えにより、CONFEが2009年9月と11月、2010年6月に、三角点沢、音更沢、天幕沢における伐採の実態を調査したところ、以下のことが判明した。

  1. 伐採場所は、大雪山の核心部とも言える緑岳、高根が原の山麓部の石狩川源流域にある森林である。上記3箇所で、契約上の伐採量は4400uであった。天然林受光伐が主体で一部人工林の保育伐もあった。

  2. 音更沢の伐採現場では、大径木が大量に伐採されていた。通常、伐根には適正な伐採であることを示すために極印(スプレーを含む)か、収穫調査の際に立木に付けるラベル(ナンバーテープ)を切り株に移し変えることがなされるが、極印もラベルもない伐根が9月に19本、11月に12本確認され、盗伐の可能性が高いと判断された。

  3. 土場や集材路を計測したところ、保安林内の作業許可条件を大きく超えた2倍以上の面積の土場や、幅員が許可条件の4倍にも及ぶ集材路などが確認された。

  4. これらの集材路を敷設する際に、重機で林床を掘削し土壌層を剥ぎ取っため、森の保水力が失われかつ大量の土砂が沢に流れ込む状態となっていた。

  5. 林野庁によるこのような伐採は過去にも繰り返され、この結果、大雪山国立公園では樹齢数百年を超える成熟木はほとんど姿を消しつつあるが、とりわけ国立公園の核心部ともいえる森林でいまもなお大量伐採が行われていることが明らかになった。

  6. 上記伐採に際して整備された林道の路盤に、タイルやプラスチック廃材等が混じったコンクリート廃材が用いられており、事実上の廃棄物処理場と化していた。


2010年6月21日、CONFEは、林野庁長官に対して、違法伐採等を抗議すると同時に、大雪山国立公園内の天然林伐採の中止と、林道の路盤材に廃棄物を使用することを直ちに中止し、すでに使用されている破棄物を直ちに撤去することを申し入れた。


3 北海道森林管理局による調査
《公表内容》

2010年9月10日、北海道森林管理局は、2009年度における音更沢、天幕沢、三角点沢の伐採事業について調査した結果を公表した。

その内容は、

  1. 森林法に基づく知事の同意の範囲を超えて作設された集材路は、その距離が12km以上に及び、同じく範囲を超える土場の面積は4100u及んだこと、

  2. 知事の同意を得ずに伐採された樹木が72本あること

を認めたものである。

三   北海道森林管理局の調査の問題点

北海道森林管理局が集材路や土場の計測を行い、森林法違反の事実を認めた点は評価しうる。しかし、それらは違法事実のほんの一部に過ぎない。今後、以下の点が解明される必要がある。


【集材路・土場について】

  1. 集材路や土場が違法に作設された際に伐られた樹木の樹種、本数、材積が不明である。伐根がほとんど残っていないため、正確な調査は困難であるとしても、違法に造られた面積(48,000u以上)と森林帳簿の各小班ごとの単位あたりの本数・材積から、失われた本数と材積を推定することは可能である。

    このことはすでに9月15日、北海道森林管理局に口頭で申入れ済みである。

  2. 上記1の大量の伐採木がどう処理されたのかについても、調査し、明らかにすべきである。

  3. 違法な集材路が12kmもなぜ作られたのか。その動機・原因の調査がなされていない。12kmもの集材路をわざわざ作るのは、違法伐採=盗伐の目的と考えるのが妥当である。

    しかし、北海道森林管理局は、請負業者が計画を越える集材路の敷設をあらかじめ届け出ていれば問題がなかったかのように記載している。単なる届出違反であるとの認識だとすると、盗伐を隠蔽するもので、国有林の森林管理者としての適性が疑われる。


【違法な過剰伐採・盗伐について】

  1. 今回、北海道森林管理局が認めた違法伐採樹木は、@音更沢における『区域外伐採』52本と、A三角点沢における土場作設の際の過剰伐採25本だけで、伐区内の違法伐採=盗伐の可能性は一顧だにせず、調査も一切していない。

    私たちが、伐区内のラベルなし伐根の多数の存在を指摘したところ、北海道森林管理局は、「ラベルが落ちた可能性がある。また、立木販売の場合と異なり素材生産においては、森林管理署から請け負った業者が伐採しそれらを計測して土場で販売(入札)するから、業者には過剰に伐ることによるメリットがない。そこで、「通達」により、ラベルの移し替えをしなくてもいいことになった」と回答した。

    ラベルを移し替えしなくてもいいのであれば、切り株を見ても適法に伐られたかどうかの判断ができないから、合法的な装いの盗伐が極めて容易に実行可能となる。

    そもそも林野庁の森林官や現場の監督者は国有財産である森林の盗伐、誤伐等を監視する義務を有するのであるが、ラベルの移し替えをしなくても良いとした場合に、どのように盗伐誤伐等を防止・発見するのか理解に苦しむところである。

    また、伐採現場にはラベルあり伐根とラベルなし伐根の両方があることを指摘すると、北海道森林管理局は、「伐採担当者によって、ラベルを移し替えたグループと移し替えなかったグループがあった」と説明している。しかし、両者は隣接して混在している。すぐ近くで作業をしながら異なる処理をしていたとはおよそ信じがたい。

《合同視察の実現》

伐区内でラベルなしの伐根が大量にみつかった問題に関する北海道森林管理局の説明は、私たちはもちろんのこと、国民を納得させるに足るものではない。そこで、現地での「合同視察」を申し入れたところ、10月16日に実施することが決まった。

四  CONFEによる再調査   = さらなる問題点 =

2010年9月18・19日、私たちは音更沢と三角点沢において、4度目の森林調査を行った。その結果、以下の事実が新たに判明した。


【集材路・土場】

  1. 北海道森林管理局による調査は詳細だったにも関わらず、音更沢では複数、三角点沢では少なくとも一箇所、記載されていない集材路を確認した。

    私たちは二日間で全範囲を調査したわけではないので、違法な集材路はさらに多いと推測される。


【違法伐採・盗伐】

  1. 音更沢では、2294林班『り小班』への越境伐採も含めて、ラベルがない伐根は新たに51本確認された。三角点沢では、伐区内で方形区をとって調査を実施したところ、全56本の伐根のうち、ラベルがあるものは21本、ないもの35本が混在する形で確認された。 このうちラベル番号の整理からラベルが落ちた可能性があると判断できたのは多く見積もっても6本だった。少なくとも29本については、違法伐採=盗伐の可能性が高い。

    今回の調査で、新たに80本の盗伐の可能性が明らかになった。

    北海道森林管理局が、盗伐を否定するのであれば、@ 全エリアの伐根を数え、A 本来の収穫予定本数と一致するかどうかを明らかにする必要がある。それはさして困難なことではない。上ノ国の違法伐採の調査のときには、北海道森林管理局は全ての伐根数を数え、個々の伐根の計測や撮影も行った。えりも道有林における違法伐採の摘発の際にも、私たちと北海道は各々、全伐根を数えた。

    今回、北海道森林管理局が、業者や職員の言葉を鵜呑みにして伐区内の伐根調査を一切実施しないままプレスリリースした行為は、重大な疑惑に自ら蓋をしたと言わざるをえない。

  2. 音更沢における北海道森林管理局が作成した違法集材路の図と、収穫調査における伐区図を照合すると、少なくとも2箇所の『調査対象外区域』に違法集材路が作設され、そこで伐採されたと推定されるので、この点も調査の必要がある。


【生態系の破壊・自然公園法違反】

  1. 集材路作設の際に、重機で地表をえぐったり、掘り起こした大きな伐根を沢側に転がし放置したり、土砂で沢を埋めるなど、森林生態系・河川生態系の破壊行為の数々が確認された。特に三角点沢における大規模な沢の埋立は、環境大臣の許可を得ずに、河川、湖沼等の水位又は水量に増減を及ぼさせ、かつ土地の形状を変更する行為であり、自然公園法違反である。

  2. 地表が削られ荒らされた林床に僅かにゴゼンタチバナが残されているのが発見された。伐採地周辺は、ゴゼンタチバナの群生地であったことが確認されたが、この群生地が集材路によって消失してしまっていた。ゴゼンタチバナは採集、損傷につき環境大臣の許可が必な指定植物(法第13条3項10号)であり、この点でも自然公園法違反である。

五   要望事項  1     =   再調査の申入   =

以上、北海道森林管理局の調査は全く不十分である。合同視察の前に以下の内容の調査を徹底して行うよう申し入れる。


【集材路・土場について】

  1. 違法に作設された集材路を再調査し、漏れがないようにすること。特に音更沢の2294林班う小班、そ小班、及び2292林班ぬ小班とその付近の調査をすること

  2. 集材路や土場の作設のために(あるいはその目的である)伐採木の樹種、本数、材積を面積比から算定すること

  3. 違法な集材路や土場が作られた動機と原因を明らかにすること

  4. 集材路と土場作設に伴う大量の伐採木がどう処理されたのかを調査すること

  5. 集材路作設のために埋め立てた沢や掘り起こされた伐根放置、消失させた指定植物の実態をつぶさに調査すること。


【違法な過剰伐採・盗伐について】

  1. 伐区内の違法伐採=盗伐の実態を調査すること

  2. 集材路や土場の作設のために(あるいはその目的である)伐採木の樹種、本数、材積を面積比から算定すること
    1 全エリアの伐根を数え、
    A 本来の収穫予定本数との違いを明らかにする

  3. 伐区内外の違法伐採木及び違法集材路作設による伐採木は、だれがどのように取得したのかを明らかにすること。

    1号物件(音更沢・天幕沢)、2号物件(三角点沢)共に、造林請負契約における「請負予定数量」と、完了時における「検査数量」がほぼ一致していた。検査が正しく実施されたとすると、違法な伐採木は土場には積まれず、伐採業者がそのまま運び出した、つまり盗伐したという結論にならざるを得ない。この点について調査すべきである。

    現地は、林道ゲートがあり常に施錠されていたのであるから、伐採業者以外のトラックが伐採木を持ち出した可能性はない。請負事業の監督を命じられていた石狩森林事務所の定村健二農林水産技官は、その監督日誌に蝶の採取者の入林さえも記載していたのであるから、違法なトラックの入林には当然、気がついたというべきである。

    仮に請負業者以外の第三者が持ち出しというのであるならば、それらの違法伐採木は伐採後、どこでどのように保管されていたのかを明らかにすべきである。


【監督検査】

上記定村農林水産技官による監督内容と責任を明確にすべきである。

六 要望事項 2  = 対策 =

対策については、今後、違法伐採の全容が明らかになった後に総合的に検討すべきであるが、現に各地で伐採が進行している今、緊急に以下のことを申し入れる。

  1. 天然林受光伐や人工林における保育伐のための伐採基準と集材路や土場の作設の基準を、生物多様性保全の基準から見直すこと。同様に森林計画を見直すこと

  2. 特に生物多様性の視点から貴重な森林については、アセスを義務付けること

  3. 進行中の森林伐採と跡地検査を、市民が監視できるシステムを作り実施すること

  4. 素材生産において、極印やラベルの移し替えを省略することを認める通達があるのであれば直ちに改正し、むしろ、極印、ラベルの移し替えを厳格に実施しチェックするシステムを作ること

七   要望事項 3     =  国立公園内の伐採の中止  =

北海道の国立公園内の国有林は、木材生産の場ではなく、豊かな生物多様性が保たれるべき場である。今後は一切の伐採を中止し、国立公園の周囲の国有林もバッファゾーンとして、生物多様性の保全を最優先させる管理に努めることを強く要望する。

八 合同視察の実施に向けて

  1. 2010年10月16日に予定されている北海道森林管理局と日本森林生態系保護ネットワーク(CONFE)の合同調査に先立って、貴局の再調査により分かったことがあれば明らかにしていただきたい。

  2. 合同視察には、東京の林野庁の担当部署、保安林を管理・監督する北海道の担当部署、国立公園を管理する環境省の担当部署からもぜひ参加していただけるように要望する予定である。

  3. 北海道森林管理局で現在進めている生物多様性検討委員会の委員にも参加していただきたく要望する。


最後に

国立公園は環境省のものではなく、国有林は林野庁のものではない。国立公園も国有林もすべて国民の財産である。環境省や林野庁は、国民の委託を受けて管理しているだけである。

国民にとっては、国立公園内、国有林内の、一本の樹木、一本の草、一枚の枯葉、一粒の土の粒子、それら全てが愛おしい。

私たちは、今後はいかなる組織、個人も国立公園・国有林を私物化したり収奪の対象と考える余地がないように国が責任をもった管理をすることを心から希望している。

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