現在進められている道道上武利丸瀬布線特対工事において、北海道が斜面に確認されているナキウサギ生息地の保全に配慮して工事方法を検討されていることに敬意を表させていただきます。

このナキウサギ生息地において昨年から今年にかけて比較的新しい転石が確認されたため、網走建設遠軽出張所では今後予想される新たな転石の危険性を回避する方法として、破砕可能な転石は人工的に破砕し、大きな転石についてはセンサーをつけて安全管理をすることも検討されているとのことです。

この工法は、ナキウサギ生息地等への影響をできる限り少なくしつつ、通過する車両への危険性を除去・減少させる対策として評価しうるものではありますが、以下のような根本的な問題があると考えます。

1 岩塊除去が風穴等ナキウサギの生息環境に及ぼす影響

ナキウサギは岩塊堆積地において、岩の隙間を利用して繁殖、貯食などの活動をしています。今回の計画では、岩塊の20個以上を破砕・除去する案のようです。

本件生息地において私たちが2004年7月25日に調査したところ、2時間でナキウサギの鳴き声を13回(それぞれ単音あるいは2〜11音の連続音、鳴きあい)、糞(2箇所)、複数の貯食(複数のシダの葉、マイヅルソウの葉、ゴゼンタチバナの葉など)、食痕などを確認しました。

さらに標高がわずか500メートルほどの場所ですが、ゴゼンタチバナ、マイヅルソウ、エゾムラサキツツジ、コヨウラクツツジ、ミヤマハンショウヅル、アスヒカズラ、スギカズラ、マンネンスギなど亜高山性の植物が無数に存在していることも確認しました。

また、斜面の岩塊の間の地温を計ると、気温が23.6度でしたが、穴の中は6.6度でした。道路反対側のササが生えている部分の地温が18度であったのと対比しても、強い冷風が吹き出している風穴地であることを確認しました。7月25日でこの温度ですから、冷風が最も強く出る季節には零度近くになると考えられます。

以上より、一帯は低い標高にありながら凍土層あるいは夏季氷の存在により夏季も冷涼な環境が保たれ、ナキウサギの好適な生息場所であると考えられます。

このような生息地は森林環境、風穴(ないし季節的凍土、永久凍土)、日照など様々な条件が微妙なバランスをもってナキウサギの生息を可能にしていると考えられます。20以上の大きな岩石の除去は、こうした微妙なバランスを崩し、ひいてはナキウサギの生息環境に影響を及ぼす恐れがあると危惧されます。

2 道路の必要性、費用対効果についての疑問

この道道は、北は遠軽町丸瀬布に、南は北海道が今年1月、林野庁からの事業承継をしないと決定し、残区間の工事が中止となった「緑資源幹線林道『滝雄・厚和線』」の既工事部分につながり、そこから国道39号線に?がっています。

1)     必要性:

現在、丸瀬布から上川、旭川へ行く道路としては、国道273号線があるほか、「旭川紋別自動車道」が開通しており、また、留辺蕊、北見市、置戸町へ行くには国道333号線、国道242号線があります。丸瀬布から上川、留辺蘂、北見へ行くには、上記国道と高速道路が便利であり、本道道から緑資源幹線林道を通って国道へ出ることはむしろ回り道です。

さらに、実際の利用状態をみても、通行車両数が非常に少ない道路です。丸瀬布方面から武利岳をめざす登山者が年間何名いるかは不明ですが、武利岳へは別ルートで行くことは可能です。

以上より、本道道が果たす市町村のネットワーク機能は希薄であり、この地点を通行止めにして通り抜け不能にしても、住民生活への支障はほとんどないと考えられます。

2)     危険性:

北海道の調査によると、本斜面には100を超える転石があり、それらの多くがオーバーハング状に堆積して非常に不安定な状態にあったり、地震時にずり落ちる可能性があったり、ブロック状に抜け落ちる可能性があるとのことです。一部の転石を破砕・除去したのちも、多くの転石が不安定かつ危険な状態のまま残ります。仮にそれらすべての転石にセンサーをつけて安全管理をするとしても、このような斜面の真下を一般市民の車両が通行することは危険でしょう。もちろん、災害時の住民の避難路としては使用すべきでない道路だといえます。危険性を十分に除去することが難しい以上、本道路を市民の通行に供すべきではありません。

3)     費用対効果:

本区間を開通させるためには、年間3〜4ヶ月間の夏季期間だけとはいえ、朝夕のゲートの開閉管理や岩塊につけた複数のセンサーの管理、監視が必要になります。そのための費用と労力は多大であり、費用対効果からも問題が大きいと考えられます。


以上より、私たちは、ナキウサギ生息地保全に配慮した工法を検討していただいていることには感謝しつつも、転石の除去及びセンサーによる管理によらず、生息地の現状をそのまま保全したうえで、この区間の通行を禁止し、もって市民の安全を図るようにしていただきたく要望いたします。

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