2010年11月17日、ナキウサギふぁんくらぶは、北海道知事と道オホーツク総合振興局網走建設部遠軽出張所長宛に、道道工事においてナキウサギ生息地保全を求める要望書を出しました。(以下、要望の要旨をご紹介します。)


道北の遠軽町丸瀬布の山奥で現在、「道道上武利丸瀬布線」特対工事が進められています。この道路沿いの斜面にはナキウサギが生息していますが、大きな岩石が転がったりずり落ちてきているため、北海道は現在、この場所を通行止めにすると同時に、今後予想される新たな転石の危険性を回避する方法を検討中です。破砕可能な転石は人工的に破砕し、大きな転石についてはセンサーをつけて安全管理をすることが検討されています。北海道がナキウサギ生息地等への影響を配慮していることは大きく評価できますが、以下のような根本的な問題があります。

1 岩塊除去が風穴等ナキウサギの生息環境に及ぼす影響

本件生息地においてナキウサギふぁんくらぶが2004年7月25日に調査したところ、2時間でナキウサギの鳴き声を13回(それぞれ単音あるいは2〜11音の連続音、鳴きあい)、糞(2箇所)、複数の貯食(複数のシダの葉、マイヅルソウの葉、ゴゼンタチバナの葉など)、食痕などを確認しました。また、標高がわずか500メートルほどの場所ですが、ゴゼンタチバナ、マイヅルソウ、エゾムラサキツツジ、コヨウラクツツジ、ミヤマハンショウヅル、アスヒカズラ、スギカズラ、マンネンスギなど亜高山性の植物が無数に存在していることも確認しました。

さらに、斜面の岩塊の間の地温を計ると、気温が23.6度でしたが、穴の中は6.6度でした。道路反対側のササが生えている部分の地温が18度であったのと対比しても、強い冷風が吹き出している風穴地であることを確認しました。7月25日でこの温度ですから、冷風が最も強く出る季節には零度近くになると考えられます。

以上より、一帯は低い標高にありながら凍土層あるいは夏季氷の存在により夏季も冷涼な環境が保たれ、ナキウサギの好適な生息場所であると考えられます。このような生息地は森林環境、風穴(ないし季節的凍土、永久凍土)、日照など様々な条件が微妙なバランスをもってナキウサギの生息を可能にしていると考えられます。20以上の大きな岩石の除去は、こうした微妙なバランスを崩し、ひいてはナキウサギの生息環境に影響を及ぼす恐れがあると危惧されます。

2 道路の必要性、費用対効果についての疑問

<必要性> この道道は、北は遠軽町丸瀬布に、南は北海道が今年1月、林野庁からの事業承継をしないと決定し、残区間の工事が中止となった「緑資源幹線林道(大規模林道)『滝雄・厚和線』」の既工事部分につながり、そこから国道39号線につながっています。

現在、丸瀬布から上川、旭川へ行く道路としては、国道273号線があるほか、「旭川紋別自動車道」が開通しており、また、留辺蕊、北見市、置戸町へ行くには国道333号線、国道242号線があります。丸瀬布から上川、留辺蘂、北見へ行くには、上記国道と高速道路が便利であり、本道道から緑資源幹線林道を通って国道へ出ることはむしろ回り道です。さらに、実際の利用状態をみても、通行車両数が非常に少ない道路です。丸瀬布方面から武利岳をめざす登山者が年間何名いるかは不明ですが、武利岳へは別ルートで行くことは可能です。本道道が果たす市町村のネットワーク機能は希薄であり、この地点を通行止めにして通り抜け不能にしても、住民生活への支障はほとんどないと考えられます。

<危険性> 北海道の調査によると、本斜面には100を超える転石があり、それらの多くがオーバーハング状に堆積して非常に不安定な状態にあったり、地震時にずり落ちる可能性があったり、ブロック状に抜け落ちる可能性があるとのことです。一部の転石を破砕・除去したのちも、多くの転石が不安定かつ危険な状態のまま残ります。仮にそれらすべての転石にセンサーをつけて安全管理をするとしても、このような斜面の真下を一般市民の車両が通行することは危険でしょう。もちろん、災害時の住民の避難路としては使用すべきでない道路だといえます。危険性を十分に除去することが難しい以上、本道路を市民の通行に供すべきではありません。

<費用対効果> 本区間を開通させるためには、年間3〜4ヶ月間の夏季期間だけとはいえ、朝夕のゲートの開閉管理や岩塊につけた複数のセンサーの管理、監視が必要になります。そのための費用と労力は多大であり、費用対効果からも問題が大きいと考えられます。

以上より、ナキウサギ生息地保全に配慮した工法を検討していただいていることには感謝しつつも、転石の除去及びセンサーによる管理によらず、生息地の現状をそのまま保全したうえでこの区間の通行を禁止し、もって市民の安全を図るようにしていただきたく要望いたします。


2010年10月31日、北海道の職員らと総勢約10名での合同視察。林の中の大きな岩石の下がナキウサギの生息する迷路になっている。



工事予定の道道から見る斜面。ナキウサギの分布に詳しい川辺百樹さんも視察。
ヒグマの足跡があったので、鉄砲をもつ方の同行もあった。


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